百合とメガネと大体駄文

ブログ名のとおりです

このレズセックスがすごい!2022

皆さまごきげんよう。年末感が無いことに焦っています。 今年も百合の総まとめ感想文を書きます。

レギュレーション
このページでは以下に該当する作品を対象としています。

  • 2022年に書籍化した単行本
    • 収録作の初公開日は考慮しない
    • シリーズものの2巻以降と同人作品は対象外
  • 2022年に封切り日が定められている映画・ドラマ

2022年を振り返る

今年も色々ありましたね。映像・実写系のニュースでいくとこんな感じでしょうか。

  • わたゆりアニメ化決定・2023年放送決定
  • 「マイ・ブロークン・マリコ」の上映
  • 舞台「やがて君になる encore」公演
  • 彗星のごとく現れた「リコリス・リコイル」
  • 「作りたい女と食べたい女」のドラマ化&放映

漫画方面もいろいろあったと思いますが、今年は完結した作品がかなり少ない気がしています。 むしろ昨年頃からの作品がどんどん長続きしていて、まさに「継続の一年」だったのかなと思います。

あと誰も言っていない気がするので大声で言うのですが

今年は河出書房新社と台湾レズビアン文学がアツい!!!!!アツかった!!!!!!!!

河出書房新社といえば、昨年10月に中山可穂先生の名作「白い薔薇の淵まで」を突然復刊させた出版社です。

今年だけの業績まとめておくと

  • 第4回百合文芸コンテストの協賛
  • 帝政ロシア×百合×SFの「蝶と帝国」を発刊
  • 結婚詐欺師に巻き上げられたお金を取り返し、その姪との逃避行を描いた 「ペーパーリリイ」を発刊
  • 女学校時代からの友人4人の人生を描いたシスターフッド小説「わたしたち」を発刊
  • どうして? 中山可穂先生本人が最高傑作と言っていた「感情教育」を復刊
  • 2023年に百合小説アンソロジーの刊行が決定

こんな感じで盛りだくさんです。
作品ジャンルも1つに固執してなくてSF・ロードノベル・シスターフッドと、広いジャンルでやってるのがすごい。
一体河出書房新社になにがあったんでしょうか。

そして台湾レズビアン文学もアツかったんですよ。

3つも出てるけど書いてる人は実質一人なんですよね。
上から邦訳本・文庫化した過去作2作なのでルール違反気味ではありますが、どれも好きな系統の作品でした。
1990年代〜2000年代の中山可穂松浦理英子先生が好きなら、絶対読んで損はないので読んでほしい。(作中に「白い薔薇の淵まで」とか出てくるし……)

オタクの早口と大声おわり。本題に入りましょう。

漫画編

デバヤシ・フロム・ユニバース

デバヤシ・フロム・ユニバースの画像(comicブーストより)

お笑い芸人を目指すシューが、ある日公園で出会った宇宙人キンコと漫才コンビを組んで漫才師を目指す作品です。 宇宙人って設定のベクトルがガチで、人前で液状化したり、分裂するタイプの宇宙人です。

とにかくコンビとして漫才をやりたいシューと、悩んだり怒ったりする不機嫌なシューが好きじゃないキンコ。
そんなキンコはステージ上だろうがどこだろうが、宇宙人特有の能力でシューを笑わせようとします。

やっぱり漫才がテーマにあるせいか、ギャグ方向に面白い印象の一冊ですね。
だからといってギャグ漫画の気分で読んでいると、見え隠れするシューとキンコの関係にやれたりやられなかったりします。
個人的には今後に期待しています。(これ書いているときに2巻出たのを知りました。一敗。)

1話試し読みはここから

東の空が白むころ

東の空が白むころカバー画像 新書館HPより引用

男勝りな性格で、いっつもバンドの先輩とバカやっているハルナ。しかしハルナには友愛という気持ちでは抑えきれない相手がいました。
それは転入生の佳代。
音楽の趣味も近く、おっとりした性格で、ころころと変わるその表情にハルナは惹かれてしまったのです。
しかしハルナがその恋心を佳代伝えることができない理由に、ハルナの過去があるのでした。

作品設定・テーマ・描写方法。どれをとっても、少し前の百合作品の王道系統なやり方で大変嬉しくなりましたね……。
ハルナが佳代のことが大好きなのに告白できない背景とかもよくある設定なのですけど、何度ハルナが自問自答しても「勘違いじゃない」という強い本心がハルナを苦しめます。
本心隠して佳代の隣に居続けるルートもあったと思いますが、佳代が動くからこそのラストはとても良かったです。

2014年くらいの百合が好きな人に届いて欲しい作品です。

試し読み的なもの見つからなかったけど雰囲気はこんな感じです。

追伸: WebCMあったから見て。こっちのほうが伝わる

少女たちの痕にくちづけを

少女たちの痕にくちづけを(コミックニュータイプより引用)

森の奥深くにある学校で過ごす少女たち。この学校に通う少女たちは全員吸血鬼なのです。
この学校には「姉妹制度」があり、14歳になった生徒には「お姉さま」となる上級生が一人下級生に付きます。 お姉さまになる上級生と出会うのを楽しみにしていたエミルは、妹になる生徒を全員追い返してきた問題児イブと姉妹になることに。

ある日イブから吸血を教わることになって人間狩りに出かけた二人ですが、帰り道にヴァンパイア・ハンターに襲われてしまいます。
撃たれてしまったイブを応急処置しようとしたエミルは、自らを血をイブに捧げるのでした。

吸血鬼漫画だと「吸血鬼と人間」という構図が今まで一般的なのですが、これは吸血鬼たちの物語という作り方をしているところが特長ですね。
一話の吸血鬼が吸血鬼に血を捧げるシーンが大変よかったです。
二話以降になると、イブもだんだんエミルのペースに乗せられて生徒と交流していくのも見どころですね。 学園の脅威としてヴァンパイア・ハンターも出てきますし、ただ吸血鬼たちが安心して暮らせる場所というところで終わらせてないのが個人的に好きです。

きみが死ぬまで恋をしたいが好きな人は読んで。絶対に刺さるから。

1話試し読み

リリィ・リリィ・ラ・ラ・ランド

リリィ・リリィ・ラ・ラ・ランドイラスト コミックキューン公式ページより引用

またもや女学校モノです。今回はちゃんと人間です。

寮の自室のスペアキーを誰かと交換することでペアとなる「番い制度」があり、いつしかそれが告白の象徴と言われている全寮制女学校の話。
そんな女の園で特に注目されているのが、5人のお嬢様による招待制のお茶会。
ある日お茶会への招待状とともに鍵を受け取った小咲は、鍵の正体を聞くためにお茶会へと足を運ぶ。
すると血相を変えた5人から番いを申し込まれることに──。

今まで姉妹関係など、ペアでなにかをすることが多かった女学校モノに、ハーレムがテーマとなる作品が出てきました。
こういう方向で新規性が出ると嬉しいですね……。
その後お嬢様達の番いの取り合い合戦が始まるんですけど、これが普通に面白い。ちゃんと心情に訴えかけてくるので、小咲の心は揺れ動きっぱなしです。

まあ一番びっくりしたのって、これがMFCキューンから出てることなんですよね。
「どれが恋かがわからない」「ケイヤクシマイ」とかもMFCキューンでやってますし、あの雑誌からこういう系統の作品が出てくるとは思いませんでした。
今後のMFCキューンに期待してます。

1話試し読み

スケバンと転校生

スケバンと転校生カバー画像 ニコニコ漫画より引用

スケバンのあつ子と、転校生の凛々は変わった遊びをやる関係です。
その遊びは「凛々が持ってきたかわいい単語をあつ子が暇なときに1日5個まで読み上げてもらう」という遊び。
「バカみたいに嬉しそうにしてる凛々を見ると可愛い」と思うあつ子と、「喧嘩が強くてかっこいいあつ子が可愛い言葉をいうギャップが可愛い」と思う凛々。
この気持ちの名前はもしかして恋なのでは……?というお話。

ギャグテイストな漫画なんですけど、キャラの感情とかはしっかり表情とかに描くタイプの作品で、表情の書き方がとにかく力強くて良いんですよね……。
話を進めれば進めるほど相手のことを意識しだして柄でもないことをやるようになり、その親密さを埋めていく過程を楽しめたら幸いです。

1話試し読み

春綴る、桜咲くこの部屋で

春綴る、桜咲くこの部屋でカバー画像 ガンガンONLINEより引用

大学に入学したときに出会った春喜と桜。互いに惹かれ合った二人は大学を出た後も一緒に暮らし、笑って、泣いて、すれ違って、重なって、また笑い合う。
そんな二人に別れは突然訪れ、桜は5年前の春に亡くなってしまいました。
そして桜を失った5回目の春。春喜は窓辺から桜の樹を眺めていると、桜が生前に言っていた「待っている桜の花びらをキャッチできると願いが叶うんだ」という言葉を思い出す。
舞い散る桜の花びらをつかんだ春喜は「桜ちゃんを返してよ!!」と泣き叫んでいると部屋から物音が。
桜が春喜と出会ってから毎日書いてた10年日記が本棚から落ち、そこには桜の姿が見えたのでした。

桜を失った春喜の、二人で綴っていく春喜の気持ちの整理がテーマの作品です。
もうね。導入の時点からとにかく重たすぎる。トクヲツム先生のTwitterじゃ春喜と桜がしょっちゅうイチャイチャしてるイラスト上がっているから、ハッピーな話かと思ったら全然そんなことなかった。
つらいよ、つらすぎる。重たい百合が大好きなんですけど、これは途中で読むのを諦めちゃいそうになるくらいつらかったです。
こういうところを含めても個人的には好きな作品でした。
2巻完結ですし、重たい作品を受け止めて動けなくなりたい人におすすめです。

1話試し読み

文芸編

ミーツ・ザ・ワールド

ミーツ・ザ・ワールドカバー画像 集英社HPより引用 婚活合コンで泥酔し、路上で吐いているところをキャバ嬢のライに拾われた由嘉里。
そのまま家に上げられ、婚活を始めた経緯や合コン話をする由嘉里。だが、ライには由嘉里の辛さが響きませんでした。
むしろ「周囲に恵まれてすごく幸せなように見える」と言われ、カッとなった由嘉里は「あなたには分からない」と言い放ってしまいます。
「じゃあ300万円あげるから顔を変えてくればいい」「私死ぬの。だからお金あげるよ」とライから言われた由嘉里は、言っている意味が分からず「私は嫌! 認めない!」とライの死を止めるのでした。
そんな歌舞伎町の一室から始まる、死にたいキャバ嬢と腐女子銀行員のお話です。

どストレートな百合かと言われると怪しいですが、百合文壇バーの話題にもあがったことですので百合とします。
とにかく作品に出てくる登場人物のキャラが全員濃い。
ミート・イズ・マインというコンテンツが大好きな腐女子銀行員の由嘉里、死にたいキャバ嬢のライ、ホストで家出少女を連れ帰る既婚者のアサヒ、この世のすべての不幸を具現化した小説家のユキ、等々。
今まで恋愛して、恋人を作って、結婚して、家庭を持って……と、絵に描いたような普通を勧めるものが人生だと思っていた由嘉里が、上記のような人たちと出会って「自分は自分の好きに生きていいんだ」と自分を肯定できるようになるまでの過程を非常にテンポよく書いている作品だと思いました。
ラストで加速するライと由嘉里の間柄がとてもよいです。そこを楽しみに読んでいるうちに、この作品にのめり込んで自分を肯定できるようになれたらいいなと思います。

ペーパーリリイ

冒頭に話した、結婚詐欺師の姪と結婚詐欺師に騙された女が逃避行に出る話です。
夏休みに家でダラダラと過ごしていた高校2年生の杏。インターホンに応じて玄関を開けると、そこには叔父の詐欺相手のキヨエがいました。
杏はキヨエとやり取りをしているうちに「この人は叔父との結婚を真剣に考えて、勇気持って家訪ねたらのんきな顔した娘が出てきてしまった」というキヨエのことをかわいそうな人だと感じました。
そのキヨエをどうにかしてやりたい一心で「いくら?」と聞き、キヨエが言った300万円とおまけに200万円を用意する。
そして叔父とキヨエの思い出の場所という、百合が咲く谷間で待ってるから返してほしかったら来いという書き置きを残し、二人で逃亡するのでした。

ばったん先生をイラストとして起用した河出書房新社の人は一体何者ですか? イラストにつられて買っちゃったので河出書房新社の思うツボです。
年が倍くらい違う杏とキヨエが逃避行をするロードノベルです。どストレートな百合というよりもガールズライフとかシスターフッドとかのほうが近いかも。
民宿やらサービスエリアを転々としながら、途中でヒッチハイクするおばあちゃんを拾ったり、行き倒れているところをボンボン大学生に拾われたりと波乱万丈な逃避行です。
ここで出てくるヒッチハイクおばあちゃんとか、ボンボン大学生の考え方が今らしくて面白いなと思いました。
すごく爽快なストーリーと文章で、読みだしたら止まらなくなるのでおすすめしておきます。

なぜか試し読みがあった。読めるうちに読んでおこう。

向日性植物

台北の女子校に通う私は、先輩の小游(シャウヨウ)と惹かれ合いそして小游の元恋人である小莫(シャオモウ)と3人で高校生活を送ります。
そして私が受験生になった時、受験という壁を乗り越えるために小游との距離を置くが、後に大きな失恋の始まりとなるのです。
そんな3人の苦悩を描いた作品です。

私と小游と小莫の3人が遊びながらも、各々が抱える同性愛というものに対して悩んで苦しんで成長してというものがテーマです。
これを読むまで台湾のレズビアン事情を一切知らなかったのですが、丁寧な脚注やら説明が載っており、そういう意味でも勉強になった作品です。
原本作者も「私はレズビアンが自殺しない話が書きたかった」と言うほど、台湾のレズビアン文学は暗くて切なくて自殺する話ばかりらしいのですが、これは自殺せずに向き合っていく付き合い方のお話でしたね。
中山可穂先生とか松浦理英子先生の系統が好きなら読んで後悔しない作品です。

独り舞

台湾から来日し、会社員として働く紀恵。彼女は、死に格別な思いがあるわけではないが生に対する執着もなく、生きる辛さを我慢できる範疇を超えたら死を選ぶという死生観を持っています。
このような死生観を持つようになったのには、紀恵の様々な過去がありました。
その過去から逃げるように台湾から日本へ移住しますが、過去を完全に消すことはできません。
日本へ逃げたにも関わらず暴かれてしまった過去に耐えきれず、紀恵は覚悟を決めるのでした。

先程の向日性植物を翻訳した李琴峰先生のデビュー作が文庫として復刊しました。
向日性植物が光の作品となるなら、こちらは闇の作品と言えるでしょう。
自分の肉体や精神を荒々しく表現した作風はデビュー作ならではの味が出ていて好きです。

これもなんですけど、中山可穂先生の暗めな作品が好きな人は絶対に刺さるから本当に読んで欲しい。
こういう日本の90年代後半に活発だったレズビアン文学が、国をまたいで現代に出るのは非常に嬉しいですし、今後も楽しみにしています。

映画編

やがて海へと届く

お願いです!! こんな駄文をここまで読んでくれて感謝しております!!
ですが、あなたの人生をもう30秒ほど貸してくれませんか!!! どうかこのトレーラー動画を見てください!!!!!

というわけで「やがて海へと届く」のご紹介です。
真奈には、どこか掴めなくて常に飄々とした親友のすみれがいました。そのすみれは一人旅に出たまま帰ってくることはありませんでした。
そして帰ってこなくなってから5年が経ちますが、すみれのことを死者として扱う周囲を真奈は受け入れることができずにいました。
すみれが遺したものを受け取った真奈は、すみれを探しに旅へ出るのでした。

「マイ・ブロークン・マリコ」「春綴る、桜咲くこの部屋で」と並ぶ、大事な人が亡くなった時に、遺された人はどうするのかがテーマの作品です。
大事な人が亡くなって、その人がいたことすらを忘れてしまうことに対しての恐れ。そして今後その事実をどう受け入れて死を乗り越えていくかの描き方が良かったですね。
この恐れと、死への向き合い方の描き方が好きで原作小説を買いましたが、映画のほうがストーリーの建て方がキレイなので映画をおすすめします。
ただし、震災表現がかなり濃厚なので苦手な方はご注意ください

ユンヒへ

ごめんもう2分ほど人生を貸して欲しい。

韓国に住むユンヒと、小樽に住むジュン。昔は二人とも韓国に住んでおり、その頃は親友同士だったのですが、二人は別れざるを得なくなりました。 それから20年以上、顔も連絡も合わせることはなかったのです。
ところがある日、ジュンが出すつもりがない手紙をユンヒに宛てて書いて置いていたところ、おばさんが手違いで出してしまいました。
その手紙を受け取ったユンヒの娘セボムは、ユンヒをジュンに逢わせようとするのでした。

今年見た映画の中で一番良かった映画。これを見た翌々週くらいにリズと青い鳥を見たけど、リズでさえ「味がついてるな〜〜〜」と思わせられた。
それくらいすごく繊細で研ぎ澄まされている作品です。
何言ってもネタバレになりそうだからこれ以上言えるものがなにもないのですが、リズと青い鳥が好きで実写映画に抵抗ない人は本当に見てほしいです。

番外編

雨降り晴れて花ひかる

番外編なので雑にいきます。「2DK、Gペン、目覚まし時計。」や「ハロー、メランコリック!」を描いている大沢やよい先生の新作です。
NLベースで百合な展開をやっているため、レギュ的に微妙か感じがするため落選です。

大沢やよい先生の絵が好きな人・辻堂葵の女、頼むから試し読みが2話まで公開されているから2話まで読んで欲しい。 https://comic.pixiv.net/viewer/stories/114786

おわりに

なんか今年の私やたらと死がテーマな作品を挙げてない……?
作品チョイスの偏りがすげえなぁって思いました。レズビアンの話か人が死ぬ話ばっか選んでる。
今年は「女による女のためのR-18文学賞」の過去作を掘りつつ、文芸新刊を追い、映画もたまに見る生活をしていました。
そのため漫画が全然読めていなくて、取りこぼしている作品とかめっちゃあるだろうなと思います。 来年は台湾レズビアン文学と河出書房新社を追いかけつつ、漫画を読む生活にしたいですね。

それでは皆さんごきげんよう